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イズモサマ 7

Auteur: 景文日向
last update Date de publication: 2026-01-05 13:52:18

 部屋に戻ると、夕飯を食べすぎたからか眠い。

「華、大和とうちが風呂入り終わるまで寝ててええよ。その時になったら起こすから」

 真矢の目に、眠そうな私が映ったらしい。お言葉に甘えて、

「おおきに。ほな、おやすみ……」

 うちは自分の布団に入り、意識を手放した。

 気がついたら、水の中に居た。それを自覚した瞬間、息が苦しくなったので海面へあがろうとする。しかし、脚を誰かに掴まれているのか全く身体が動かない。おそるおそる脚の方を見ると、そこには長い黒髪をゆらゆら漂わせている、巫女服姿の女性が笑っていた。

 ————イズモサマだ! 頭ではわかっても、夢の中なんて一番何も出来ないところだ。誰かがうちのことを起こしてくれたら、すぐに起きられるのに。自力で起きるのは難しそうだ。

 酸欠で判断能力が低下している。このままでは死んでしまう、と思えどイズモサマは脚に纏わりついてきて離れる様子はない。このまま溺れ死ぬのだけは嫌や、そう願ったところで「華! 華ってば!」という声が空から降ってきた。たまらず手を伸ばすと、目の前が一気に開けてここが真矢の家だと認識できた。

「酷くうなされとったから起こしてもうた、ごめんな」

「ううん、むしろおおきに。あのままやったらうち、どうなっとったかわからん」

 うちは、真矢に夢の内容を説明した。

「イズモサマって何処にでも現れるんやな……怖いわぁ」

 真矢の額には、汗が浮かんでいる。

「無事で良かった、よかったよぉ……」

 やがて泣き出した真矢を抱きしめていると、浴室の方から「うわ!」と大きな声が聞こえた。真矢の身体がびくりと震える。大和だ、と考えが追いつく頃には既に走り出していた。

「大和、大丈夫!?」

 躊躇せず扉を開けると、パジャマを下半身だけ着た大和と巫女服姿の女性が対峙していた。

「あれが、イズモサマ……?」

 真矢は初めてその姿を見るからか、いまいち実感が沸いていない様だ。

「大丈夫、やけど……こいつがな……」

 大和は、視線をイズモサマに向けた。今のうちらでは、太刀打ちできない存在。どうしたらいいのだろう。

「……見つけた、新しい私」

 イズモサマはというと、真矢をまじまじと観察している。これに何の意味があるのかは不明だが、とにかく良くない状況だということはひしひしと伝わってくる。

「嫌や、ちょ、触らんといて!」

 イズモサマは大和への興味を失くしたのか、真矢の方へ歩み寄っている。真矢の肌に、イズモサマの手が触れる。

「あなた、私の血を継いでるわね。邪魔な血統も組み込まれている様だけれど……この純度なら乗り移れる。この身体はそろそろ限界だから、助かったわ」

「嫌や、助けてっ!」

 真矢がこちらへ向かって手を伸ばす。その手をうちと大和で掴み、イズモサマと引き離そうとする。

「……まずはこの二人を片付けてから、か」

 イズモサマは、視線をうちと大和に向けた。その次の瞬間だった。大和の上半身と下半身が真っ二つに割れたのは。溢れ出る血の臭いが、浴室を埋め尽くす。

「きゃあああああああ!」

 あまりにも実感がなさすぎる光景だったので、何も言えなかった。真矢は状況を呑み込んだようで、絶叫している。

「安心し、死んではないから」

 息も絶え絶えに大和が言う。今死んでいなくとも、この出血量だと時間の問題だろう。

「大和……でも……」

「僕らはまだ、呪いに対抗できるはずや。ちゃうか?」

 そう言われても、このままだと全滅だ。間違いなく次はうちだし、真矢も大変なことになりそうな気配がある。

「あぁ、やっと見つけた私の新しい器。一緒になりましょうね。古臭い身体は捨てて」

 何を言っているのか理解が出来ないが、真矢がピンチなことはわかる。うちは捨て身でイズモサマにタックルした。だが、それも効果はなかった様で弾き飛ばされてしまう。

「華!」

 真矢がうちの名前を呼ぶ。しかしその顔は、半分ほどイズモサマのそれになっていた。

「ふふ、もうあなたは私のもの。この身体は私のものとして使わせてもらうわ」

 服以外の全てが、とってかわられた。顔も声も、真矢の面影はどこにもない。

「さて、後はあなただけね。夢の中で殺そうとはしたけど……痛い目を見る方が好きみたいね」

 逃げようと思ったら、背後が壁で激突してしまう。

「逃げても無駄よ、あなたのことは覚えているから。でも、自由にして貰ったという点には感謝しているわ。それだけだけれど。最後に言い残すことはない?」

 大和の方をふと見ると、既にこと切れている様だった。だけれど、最後にこれくらいは許してくれるだろう。

「……うちは、大和が好きやった」

「そう」

 無機質な声を発し、イズモサマはうちの頭を掴んだ。そこから先何があったのかは、呪いのみぞ知る。

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